古典落語「鼠穴」
古典落語「鼠穴」を紹介します。商売の大切さを教えてくれるビジネスマン必聴の噺です。
この噺は人間の本質を描いたある意味怖い噺です。そしてお金の大切さ、仕事や商売の理想像を描いた噺でもあります。
経済を担うビジネスマンにぜひとも聴いて頂きたい噺です。
古典落語「鼠穴」あらすじ
立派な兄・・それにひきかえ・・・
竹次郎には兄がいる。田舎から江戸に出てきて己の才覚で立派な商人になった。
それにひきかえ、自分はどうだろう。兄弟二人とも亡くなった親から田畑を貰い、兄貴はそれを金に換え元手にして商売を成功させたが、自分は悪い友達にそそのかされて茶屋酒というものに手をだした。
せっかく親からもらった財産を酒や女に散財してしまって一文無しだ。
立派な兄貴に比べて自分はなんて情けないんだろう。このままじゃ本当に自分がダメになってしまう。兄貴のようになりたい。せめて、兄貴のところで奉公人でもいいから働かせてほしい。
さっそく竹次郎は江戸にいる兄の元を訪ねた。
よお 竹じゃねえか 久しぶりだな 今日はどうした?
兄さん、お久しぶりです。兄さんの元で奉公人として働かせ欲しい
せっかくもらった田畑を遊びに使って人に取られて一文無しです。人生やり直したいんです。なんでもやりますから使ってほしいのです。
奉公人なんてばかばかしいぞ。いくら働いても自分の金になりゃしねえ。それより自分で商売しろ。
稼いだ金は全部自分のものだ。
自分で商売するにしても元手がありません。元手を貸してくれませんか?
兄は「わかった」と言い竹次郎に商売の元手だと言って布に包んだ金を渡す。
竹次郎は「兄貴、すまねえ」と感謝し、「いくら入っているのか」と包を開けて驚いた。
兄貴はケチなのか?
3文!?
馬鹿にしやがって!
兄が竹次郎に渡したのはたった3文。現在の貨幣価値に直すと60円くらい。子供の駄賃じゃあるまいし。商売の元手としては馬鹿馬鹿しいほどの安い金額だ。
くっそー 兄貴め
たった3文しかくれないなんて
いつか兄貴を見返してやる!!
竹次郎 悔しさをバネに・・・
竹次郎は悔しさをバネにして兄貴から渡されたたった3文の金をもとにして商売を始める。
米屋でサンダラボッチ(米俵の先端についた俵の両端につける円形の藁ぶた)を改良してサシ(江戸時代の一文銭などの穴開き銭をまとめるための麻や藁のひも)をこしらえ6文で売れた。今度はその6文を元手にサシをどんどん作ってそれを倍の12文で売る。
今度はその12文で俵を買い24文で売れた。それを繰り返し24文が48文、48文が96文にとどんどん増えていった。
増えた元手をもとに、朝はシジミ売り、昼は豆腐売り、夜になったらうどんや稲荷寿司を売って歩く。それこそ身を粉にして働いた。
竹次郎の頑張りが報われて10年後には江戸で大店を構えるほどの立派な商人になった。
竹次郎 借りた金を返しに行く
兄に元手を返しても十分に余るほどの金を稼げるようになった竹次郎は元手を返すために兄の元を訪れた。
店を留守にするので、番頭に火事になるといけないから鼠穴をふさいでおくようにと申し付けた。
鼠穴とは蔵や建物の壁に鼠が壁を齧って開けた穴のことだ。火事が多かった江戸時代。火事の炎が鼠穴を通じて蔵や建物に燃え移ることが多かった。
竹次郎は元手の3文と利息と称して2両の金を兄に返した。
竹次郎 俺はお前にあの時たった3文しか貸してやらなかった。さぞかし悔しかっただろう。
たった3文しか貸さなかったのは、茶屋酒なんぞにうつつを抜かしていたお前に大金を貸すとまたそれを遊びに使っちまうだろうから、わざと厳しくしたんだ。
兄はせっかくだから兄弟さしで酒を飲み、今晩は泊っていけと竹次郎に言う。
竹次郎は店が火事になるのが心配だから帰ると言ったが、そうなったら俺の身代を全部やるというので断る理由もなく、兄の言葉に甘えることにした。
10年ぶりに兄弟さしでしこたま酒を飲み、酔いが回って来た。そろそろ寝ようと床に入ってうつらうつらしているとカンカンカンと半鐘の音がする。
火事だ~
店の者が深川蛤町の方から火の手が上がったと言っている。深川蛤町といえば竹次郎の店があるところだ。
竹次郎が急いで駆け付けたら店の蔵に火の手が周り、火は瞬く間に燃え広がり、竹次郎の店も蔵も全焼。財産の大半を失った。あれほど口を酸っぱくして言いつけていた「鼠穴をふさぐ」ことを番頭が忘れていたのだ。
竹次郎 再び兄の元へ
わずかに残った財産を元手に、竹次郎は再び商売を始める。裏長屋に小さな店を開くがさっぱり商売にならない。本格的に商売するにはどうしてもまとまった金が必要だ。
おかみさんは心労のあまり寝込んでしまう。にっちもさっちもいかない竹次郎は娘のお芳を連れて再び兄のもとへ金を借りようと訪ねる。女房・子供に飯を食わせなければならないし、店を再開するには少なくても100両は必要だ
お前には金は貸せない。女房子供を養わなければならないって俺が頼んだわけではない。女房子供がいるからって100両なんぞ貸せるわけない。
確かにお前の家が焼けたら俺の身代全部やっていいと言ったが、あれは酒の戯言だ。真に受けたお前が悪い
この期に及んでまだ金を貸さねえってのか!人間じゃねえ!鬼!悪魔!
健気な娘
落ちぶれて途方に暮れてどうしたらよいか分からない竹次郎に娘のお芳が声をかける。
おとっつあん いくらお金があればご商売ができるの?
あたしが吉原のお女郎さんになってお金をつくってあげる
まだ幼い娘が「あたしがお女郎さんになってお金をつくってあげる」なんて、なんて健気な娘なんだろう。しかし、娘をそんなかわいそうな目に合わせることなどできない。だけど、手っ取り早く金を手にするにはそれしか方法がない。
仕方なく、知り合いの吉原の大店に声をかけて娘を売り、20両という大金を手にした。
吉原大門をくぐり、見返り柳を背に、「おっとつあんがお前を一日でも早く家にもどしてやるからな」と心に誓うのであった。
更に追い打ちが・・・
すると身体に衝撃を受けた。急いで懐を見てみるとせっかく娘を売ってまで手にした20両がない。
泥棒!
すりに20両をすられてしまったのだ。
もうダメだ・・・・・
竹次郎は絶望のあまり、着物の帯を結んで輪をつくり、近くにあった大きな石に乗り、首に括りつけて思いっきり石を蹴とばすと・・・・
ゲフォッゲフォッ
おい!竹次郎!ゆんべからずっとうなされて。こっちは眠れなかったぞ
なにか悪い夢でも見てたのか?
たった3文から苦労して築き上げてた自分の商売、家、店、蔵がほんの一瞬で焼けてしまい全財産を失った悪夢のような出来事は夢だったのである。
夢だったのか~ よかった!!
ずっと鼠穴の事が気になって
ワハハハ!夢は五臓(土蔵)の疲れじゃ
この噺を聴いた感想
古典落語 鼠穴を初めて聴いたとき衝撃を受けました。まるで火事が本当に目の前に起きているかのような錯覚を覚えました。
竹次郎が苦労して築き上げてきた財産が火事により一瞬のうちに失われていく・・・。そんなことがあっていいのかと思いました。次はどうなる?とハラハラしてこの噺を聴いていました。
最後、最悪な出来事が全部夢であったとわかりホッとして安心しました。
まるで映画を観ているような気持ちになりました。この演目は実に写実的です。他の噺とは少し違う新鮮な気持ちになる事ができます。
このドキドキ感、安心感をぜひ味わうためにこの古典落語 鼠穴 という演目をじっくりと聴いてみることをお勧めします。
お金の本質とは?
たいして苦労もしていないのに、お金を手に入れた人。例えば、親の莫大な遺産を相続した人、宝くじでいきなり高額当選してしまった人、優秀な営業成績で年収1000万円を超えるようなエリートビジネスマン・・・
そういう人に限って金遣いが荒かったりします。金に物を言わせて毎晩飲み歩き、1等地に高級マンションを購入し、派手な外車を乗り回す。いくらお金があっても、お金を全部使い切り多額の借金までしてしまう。そんな人がいたりします。
逆に年収がそれほどでもない人の方が、収入に見合った堅実な生活をしたりします。会計をやりくりして、きちんと計画し浪費をしないように自分をコントロールできたりします。
この噺に出てくる竹次郎、最初は親の財産を食い散らかすどうしようもない奴でしたが、金がないことで逆に目が覚めたのか改心して自分をコントロールできるようになりましたね。
人生にはお金がつきまといます。お金がないと人間は生きていません。しかし、お金は人生を振り回す怖いものであるとこの古典落語 鼠穴という噺を聴いて改めて思い知らされました。
古典落語 鼠穴 をビジネスマンに聴いてほしい理由
今の時代、パソコンやスマホ1台あれば手軽にビジネスができる時代になりました。
ネットビジネスは少ない元手で手軽に始めることができますが、成果が出るまで時間とかなりのノウハウが必要です。
成功させるためには相当の努力が必要ですが、たった3文でマイナスの感情をエネルギーとモチベーションに変えて自分の商売を成功させた竹次郎の工夫と生き様が、これからビジネスを始めようとしている人にとって参考になるかもしれません。
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