古典落語「文七元結」あらすじ  江戸っ子の見栄っ張りと人情を完全解説

落語・漫才

古典落語「文七元結」あらすじ

古典落語「文七元結」のあらすじです。

落語初心者の方で、「文七元結」ってどんな噺なんだろうって興味のある方に向けて、出来るだけ分かりやすくあらすじをご紹介します。

この噺は登場人物が多く、人情見あふれるエピソードの中におかしみを持たせなければならないので、演じるのが難しい演目です

この噺が演じられれば落語家として一人間とされるすごい噺です。こんなのよく覚えられるよ。やっぱり落語家ってすごい。

古典落語「文七元結」あらすじ 博打は身を亡ぼす

本所の達磨横丁に住む腕はいいが、博打にのめり込んでいる左官職人 長兵衛。

ある日、博打にコテンパンにやられて身ぐるみはがされ、半纏一枚になって家に帰ると、家にいるはずの娘のお久がいない。嫁が半狂乱になって探している。長屋の人たちがみんな探してくれたがどこにもいない。

古典落語「文七元結」あらすじ

お久はどうした?

古典落語「文七元結」あらすじ

自分の胸によくきいておくれよ。

博打に負けて身ぐるみはがされ、やけになってあたしやお久に八つ当たりするだろ。怒鳴ったり殴ったり。

この家が嫌になって出ていったんだよ

古典落語「文七元結」あらすじ

あたしゃあの子が身を投げやしないかって心配で心配で仕方ないんだよ

そうこうしているうちに誰かが家を訪ねてきた。

聞くと、吉原遊郭の大店「佐野槌」の使いだと言う。「佐野槌」は吉原で一、二を争う名店だ。

「お久さんがうちの店に来ております。女将が長兵衛さんにすぐに来て欲しいと申しております」

長兵衛はすぐにでも佐野槌に行きたかったが、博打で着物まで取られてしまって着ていくものがない。仕方ないので八ツ口のあいた女房の着物を着て女将の元を訪ねていった。

わけを聞くと、娘のお久が「うちの父上が仕事をしないで博打に夢中になってほうぼうから義理の悪い借金をしています。八つ当たりで私やおっかさんを怒鳴ったり殴ったりします。どうか私を買ってお金を貸してください」と身売りをして金を工面しようと泣きながら女将に頼み込んできたという。

お前さん。
腕はいいんだから真面目に仕事すりゃあちゃんと稼げるんだよ

こんな親思いの娘が
身を沈めるまで思いつめるなんて
あんた本当に人の親か?

こう言って女将は長兵衛を諭す。

女将「それにしても、なんで博打なんて手を出したのさ」

長兵衛「面目ねえ。金を稼いで女房や娘にいい思いをさせようと思って手を出した。そのうちにっちもさっちもいかなくなって・・」

女将「いくらあったら義理の悪い借金を返せるのさ」

長兵衛「とりあえず50両あれば・・・」

女将は長兵衛にお金を貸す事を提案する。「お久を店には出さない。身の回りの世話をさせるからうちで預かる。金を貸してやるから次の大晦日までに返してもらいたい。」

「そのかわり返済期限の大晦日を一日でも過ぎたら女郎として店に出す。」という約束をして長兵衛に50両もの大金を渡した。

長兵衛 改心する

古典落語「文七元結」あらすじ

大事な金だ ありがてえ もう二度と博打なんざしねえよ

長兵衛は自分の身を沈めてまで金を作り家の窮地をすくおうとする娘のお久の必死の思いを知り、もう二度と博打をせずに真面目に仕事をしようと改心する

身を投げようとする若者に出くわす

大事な金を懐に家に帰る途中、大川の吾妻橋で身を投げようとする男に出くわす。長兵衛は大川に身を投げようとする青年の身体を掴み身投げを必死に止めようとする。

放して下さい 死ななきゃならないわけがあるんです。

わけを聞くと、青年は日本橋横山町の鼈甲問屋・近江屋の奉公人・文七。

水戸の屋敷に掛け金の回収に行った帰り、柄の悪い連中に取り囲まれて掛け金の50両をすられた。大事な掛け金を取られたのは自分の責任だ。もう生きてはいけないと身を投げる決心をしたという。

わけを聞いた長兵衛はなんとかして身投げするのを止めようと諭すが、文七は「死ぬ」といって聞かない。

古典落語「文七元結」あらすじ

死んだってしょうがねえ。ここに50両ある。

50両あったら死なねえのか?おめえにくれてやる

長兵衛はなぜ今50両持っているかの経緯を文七に話した。

そんな大事なお金を私が頂くわけにはまいりません

しかたないので源兵衛は50両を投げつけるようにして文七に差し出した。文七はあの汚いなりをした男が50両をくれるなんて信じられかったが、実際に50両という金を見て思わず「ありがとうございます」と心の中で叫んだ。

50両は盗まれていなかった?

遅くなり文七が近江屋に戻ると主人に尋ねられた。

主人「文七 50両はどうした?」

文七「ここにございます

主人「おかしいぞ。お前はお屋敷で碁に夢中になって50両はそこに忘れてきたんだ。売掛の50両は水戸様から届けられてここにある。なぜお前が50両を持っているんだ。どこから持ってきたんだ」

文七は長兵衛から50両を貰った経緯を主人に話した。

主人は見ず知らずの人に大金を差し出す長兵衛の心意気にえらく感動し、お久が身売りされた店の名や長兵衛の家をなんとか聞き出し、文七を連れて礼を言いに長兵衛の長屋を訪れる。

長兵衛の長屋では、「大事な金をなんでやったのか」、「いや、やったもんは自分の金じゃねえ」と激しい夫婦喧嘩の真っただ中だった。

主人は長兵衛からもらった50両を返そうとするが、長兵衛は受け取ろうとしない。

古典落語「文七元結」あらすじ

いったんあげた金はあなたがたのお金です。もう自分のものじゃない

受け取りを渋る長兵衛に、再び頭を下げてなんとか受け取ってもらう。

主人はさらに礼として角樽と酒二升の切手を礼として差し出す。

さらに、「こんな肴はお気に召しますでしょうか」と声をかけると、家の外では文金高島田にきれいに着飾ったお久がいた。なんと主人に身請けをされたというのだ。

お久との予期せぬ再会に、半纏1枚という裸同然の母が思わず出てきてがしっと抱き合う。うれし涙にくれた。

文七とお久は結ばれ、麹町に元結屋を開き、たいそう繁盛した。

なぜ長兵衛は50両という大金を差し出してまで文七の命を救おうとしたのか?

現在の貨幣価値では江戸時代初期では1両=10万円、時代が下がるほど物価が上がっていって貨幣価値が下がり江戸時代中期では4~6万円、幕末では5千円~1万円になるのだそうです。

この噺の時代設定を江戸時代中期だとしたら、1両5万円として50両は250万円ということになります。

この噺で長兵衛は身を投げようとする文七に対して50両=250万円という大金を差し出してまで文七の命を救おうとします。

その50両を渡してしまったら自分のかわいい娘が遊郭で客を取らされるのに・・・

見ず知らずの人でもでも困っている人がいたら黙っているわけにはいかない。お金は大事だけど、命はそれよりもっと大事。死んでしまったらなんにもならない。なんとか助けなければと考えるよりも行動が先にでちゃったのかもしれません。

そんな長兵衛さんにとてつもない人情見と魅力を感じてしまいます。だからこそ、文七の主人が長兵衛さんの心意気に感動して最後はハッピーエンドになったのでしょう。

古典落語「文七元結」あらすじ この噺を聴いて感じること

困っている人を見かけても素通りしてしまう人が多い現在の日本。

もちろん困っている人がいたら声をかけて手助けする人もいっらしゃいますが、そうでない人が多いような気がします。

アパートやマンションで隣はどんな人が住んでいるのか分からない・・・今の日本(特に都会)は他人に無関心な人が多いような気がします。

困っている人に関わって、面倒な事に巻き込まれたくない、余計な事はしたくない。自分の利益にならないことはしたくない。
そんな個人主義的な考え方が主流となっているのかもしれません。

こんな殺伐とした現代にこの古典落語「文七元結」という噺を聴くと思わずほろっとしてしまいます。

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